異邦人の俺は 親友の 裏切りの接吻 を受け 死ぬ直前で 蘇った。
永遠の眠りを齎す為に。
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異邦人の主は 弟子の 裏切りの接吻 を受け 一度死んだが 蘇った。 救いを齎す為に。
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夏野の言いつけをきちんと守ってかつての親友は得た情報を彼にぽつりぽつりと報告し続ける。 下り坂を下る車輪はもう止まらないのだ、と夏野はふと思い、そしてあと一時間程で曙がやってくる事に気が付いた。東が明るみ始めたらもう終わりだ。 「…時間だ。そろそろ帰れ。日が昇る」 ───許しを請う事すら許さなかったのだから、当然だ。 外場を取り囲む樅林の色は漆黒に溶け込み、暗い。だが直に夜が明ける。刻々とその時がやってくる。終末の日。審判の日。裁きの日。朝が来る。
「おやすみ、徹ちゃん」 そうしてかっきり朝陽が昇り始めた頃合に、夏野は漸く眼を閉じ、意識の上澄みをゆるゆるとなぞった。血のように赤い暁光が白面を照らす。…ああ、ここにも死が潜んでいる。だが死は救いでもある筈だ。眠りが癒しであるのと同じく。 その為ならばどんな犠牲をも厭わない。この身でさえ。 |